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フィリアホール:アルティ弦楽四重奏団演奏会 [音楽時評]

1029日,遠路を,青葉台のフィリアホールに,アルティ弦楽四重奏団の第7回定期演奏会を聴きに行ってきました.15時からのマチネーでしたが,客の入りは80%位だったでしょうか.
秋は芸術の秋ばかりではなく,スポーツの秋やら紅葉の秋でもありますから,無理からぬところでしょうか.ただ,来年は,今から128日という何かを思い出す日が既に第8回として予定されています.

メンバーは,もうご紹介する必要がないかもしれませんが,
ヴァイオリン: 豊島泰嗣,矢部達哉  第13曲を豊島が,第2曲を矢部が第1ヴァイオリン
ヴィオラ:     川本嘉子
チェロ:     上村 昇 
でした.いずれも,一流オーケストラでコンマスや首席奏者を勤めたり,ソリストとしての活躍も目覚ましい顔ぶれで,プレ・トークをやった奥田佳道氏は,日本最高の弦楽四重奏団と褒めていました.

プログラム・ノートで,相変わらず分かりにくい文章に加え,スペースの1/4を自分が業界の顔ききであることの宣伝に使った音楽ジャーナリストに取って代わって,奥田氏は,当日のプログラム3曲の共通点として,Andante cabtabileが挙げられること,4楽章構成を確立させた晩年のハイドンとそれを継いだベートーヴェンでは,いずれもOp.~の何番とあるのだが,両者とも同じ Op6曲書いた内の1曲であることなどが説明され,チャイコフスキーの場合は,生涯で3曲書いた中で当日演奏された弦楽四重奏曲第1番だけが,しばしば演奏機会を得ているといった聴き応えのある話がありました.

プログラムは,名曲揃いで,
ハイドン:      弦楽四重奏曲第79番ニ長調Op.76-5「ラルゴ」 Hob.79
ベートーヴェン:  弦楽四重奏曲第5番イ長調Op.18-5
チャイコフスキー;弦楽四重奏曲第1番ニ長調Op.11
でした.

「ラルゴ」は第1楽章でAllegretto-Allegroとテンポ変化を持った明るい3部形式,第2楽章が美しい旋律の「ラルゴ(カンタービレ・エ・メスト)」,第3楽章はメヌエット,終楽章の再現部では第2ヴァイオリンが活躍して目を引きます.ベートーヴェンでは矢部達哉が第1バイオリンを弾いて,優美な音を響かせていました.Op.18はベートーヴェンの初期の第1番から6番までの作品の5曲目で,第1楽章Allegro, 2楽章Menuette,のあと,3楽章Andante cabtabileが続き,田園風という指示のもと,5つの変奏曲が展開され,終楽章Allegro で,やや長いコーダで締めくくられます.矢部達哉がまさに適任だったとおもいます.

チャイコフスキーは,なんといっても第2楽章Andante Cantabile が柔らかで優美な演奏が強く印象に残りました.

アルティ弦楽四重奏団は,私が挙げる日本のトップ・クァルテット,東京クァルテット,ロータス・クアルテット,アルティ弦楽四重奏団,それに続くクァルテット・アルモニコといった団体で,特にチェロが欧米のクァルテットと並ぶレベルにありますが,その中ではアルティのチェロが少し引いた感じで,しかししっかり低音を支えて,弦楽四重奏の優れたアンサンブルを形成していました.
ぜひぜひ,今後も長―く続けて欲しい演奏集団です.

思えばカザルス・ホールのレジデント・クァルテットとして,漆原啓子が第1ヴァイオリン,豊島泰嗣はヴィオラを弾いていたのが思い出されます.
さらにその前には,巌本真理弦楽四重奏団,さらに遡れば,NHK交響楽団のコンサートマスターだった岩淵隆太郎が主催したプロムジカ弦楽四重奏団が思い出に残っています.


Yuja Wang(pf) のCarnegie Hall debut 評 [音楽時評]

24歳の若き天才ピアニスト,Yuja Wang は,先日,ハリウッドでミニドレスで演奏して話題になりましたが,実はCarnegie Hall bebut を済ませていなかったようで,やっと先週,それを果たしたそうです.

The New York Times の は好意的な評論を書いています.タイトルの Flaunting Virtuosity (and More) だけでもその意は尽くされているといえます.

The 24-year-old Chinese pianist Yuja Wang is not above flaunting her uncanny virtuosity. A video of her effortless performance of a seemingly impossible transcription of “Flight of the Bumblebee” has gone viral on YouTube. And though she comes across onstage as somewhat shy, Ms. Wang has a flair for fashion.

since she first emerged, Ms. Wang has proved herself a sensitive and probing artist. At Carnegie Hall on Thursday night she gave her much-anticipated New York recital debut. From the opening piece, an early Scriabin prelude, Ms. Wang played this Chopinesque music, all rippling left-hand figures and dreamy melodic lines, with a delicacy, poetic grace and attention to inner musical details that commanded respect. This was the first of five diverse and wondrously performed Scriabin selections.

After intermission she offered a rhapsodic, uncommonly nuanced account of the formidable Liszt Sonata in B minor. But the most revealing performance came in Prokofiev’s Piano Sonata No. 6 in A. Completed in 1940, this nearly 30-minute work channels some barbaric, propulsive, harmonically brittle outbursts into a formal four-movement sonata structure. In most readings, intriguing tension results from hearing music of such aggressive modernism reined in by Neo-Classical constraints.
Ms. Wang reconciled these conflicting elements through a performance of impressive clarity and detail.

まだ続いていますが,いわゆる新世代の天才ピアニストと呼ばれる少数の秀でたピアニストに対する好意的な評論を,あとはご自由に,ご渉猟下さい.
今年,3月5日に紀尾井ホールで彼女を聴く機会が持てたのは今から思えばたいへんラッキーでした.来年も,是非,来日して欲しいモノです.

 

Music Review

Flaunting Virtuosity (and More)

The 24-year-old Chinese pianist Yuja Wang is not above flaunting her uncanny virtuosity. A video of her effortless performance of a seemingly impossible transcription of “Flight of the Bumblebee” has gone viral on YouTube. And though she comes across onstage as somewhat shy, Ms. Wang has a flair for fashion.

Ruby Washington/The New York Times                                                           Yuja Wang The 24-year-old performed works by Scriabin, Prokofiev and Liszt at Carnegie Hall.
Still, since she first emerged, Ms. Wang has proved herself a sensitive and probing artist. At Carnegie Hall on Thursday night she gave her much-anticipated New York recital debut. From the opening piece, an early Scriabin prelude, Ms. Wang played this Chopinesque music, all rippling left-hand figures and dreamy melodic lines, with a delicacy, poetic grace and attention to inner musical details that commanded respect. This was the first of five diverse and wondrously performed Scriabin selections.

After intermission she offered a rhapsodic, uncommonly nuanced account of the formidable Liszt Sonata in B minor. But the most revealing performance came in Prokofiev’s Piano Sonata No. 6 in A. Completed in 1940, this nearly 30-minute work channels some barbaric, propulsive, harmonically brittle outbursts into a formal four-movement sonata structure. In most readings, intriguing tension results from hearing music of such aggressive modernism reined in by Neo-Classical constraints.

Ms. Wang reconciled these conflicting elements through a performance of impressive clarity and detail. The first movement begins with a hard-driving theme, like some pumped-up march that trumpets the dissonances embedded into its diatonic harmonies. Though the small-framed Ms. Wang did not have a particularly big sound at the piano, she turned this into a virtue by playing with crystalline tone and myriad rich shadings. In the mysterious second theme, which unfolds in wandering parallel octaves, she brought out subtleties that often slip by in other performances. The marchlike Allegretto had sardonic humor, with its theme in sly staccato chords over a galumphing bass line. She shaped the languid, waltzing slow movement beautifully and dispatched the finale as if it were music Prokofiev had written for a chase scene in a silent film, a fresh and enjoyable approach.

That Ms. Wang played the Liszt work with such technical authority was no surprise. I have heard other accounts that better conveyed the ingenious, if elusive, design of this 30-minute multisectional, single-movement score. But Ms. Wang’s magisterial and dazzling performance made the most of every moment.

There were four encores, all transcriptions, including Ms. Wang’s arrangement of Dukas’s “Sorcerer’s Apprentice,” brilliantly realized.

So what did she wear? Ms. Wang had raised expectations on this question by some of her past choices of attire. Last summer she sported a tight, short orange dress for a performance with the Los Angeles Philharmonic at the Hollywood Bowl, provoking comment among critics and fashionistas. But that was Hollywood. For august Carnegie Hall, Ms. Wang looked striking in a simple, elegant black dress, though her shiny stiletto heels were a daring touch. I think she would want it reported that for the second half she changed into a more revealing velvety dress, slit open at the side.

In any event, she is a lovely young woman. If you’ve got it, flaunt it. What matters is that Ms. Wang has got it as a pianist.


サントリーホール:都響B定期,小泉指揮,ドイツ・レクイエム [音楽時評]

10月25日,東京都交響楽団のB定期公演のブラームス作曲「ドイツレクイエム」を聴きに行ってきました.指揮は最初はコンスタンティン・トリンクス(1975年ドイツ生まれ,現在ダルムシュタット州立劇場首席指揮者)が予定されていたのですが,日本の原発事故を懸念してキャンセルしてきたため,レジデント・コンダクターの小泉和裕に変更されていました.

他の出演者は,
ソプラノ:  佐々木典子
バリトン:  萩原 潤
合唱団:   晋友会合唱団
でした.

「トイツ・レクエム」ですから,ドイツ人指揮者の指揮の方が向いていたでしょうが,少なからず残念でした.この曲がわざわざ「トイツ・レクイエム」と呼ばれるのは,通常レクイエムは,カトリック教会において死者の霊を慰めるための典礼音楽のことであり、ラテン語の祈祷文に従って作曲されるものです.しかし、ブラームスはプロテスタント信者でしたから,この曲ではマルティン・ルターが訳したドイツ語版の聖書などに基づいて、ブラームスが自分で選んだテキストを歌詞として使用していますし,演奏会用として製作され、典礼音楽として使うことは考えられていないという大きな特徴をもっているからです.ブラームス自身も、「キリストの復活に関わる部分は注意深く除いた」と語っていたといわれます.
最初は,ブラームスを世に出すのに貢献したシューマンの死をキッカケに作曲に着手しながら,なかなか進まず,自分の母親の死を契機にやっと書き上げられたとされています.
典礼音楽ではありませんから,むしろこの世に残された者への慰めの曲といえます.

第1曲「悲しみを抱くものは,幸いなるかな」
第2曲「肉体ある者はみな草のごとく」
第3曲「主よ、知らしめたまえ」
4曲「なんじのいますところは、いかに愛すべきかな」
第5曲「汝らも今は憂いあり」
6曲「われらここには、とこしえの地なくして」
第7曲「幸いなるかな、主のもとで死ぬるものは」

の全7曲構成です.

第3曲にバリトン・ソロが入り,第5曲にソプラノ・ソロ,そして第6曲にバリトン・ソロが入ります.
かつて,第3曲で,ドーマス・ハンプソンの美しいバリトンの歌声に感動した記憶があるものですから,今夜の萩原 潤さんにはモノ足りなさを感じてしまいましたが,ソプラノも,全盛期のキャスリーン・バトルを思い出してしまって,悪いのですが,佐々木典子さんにもモノ足りませんでした.

モノ足りないというよりは,指揮者小泉和裕があろうことかこの曲を暗譜で振っていたことにも「なぜ?」と感じてしまって,聴く方が冷めていました.ラテン語ではなくドイツ語ですから,全部頭に入っていたのかも知れませんが,それなりの合唱大曲(約70分)ですから,楽譜への書き込みを思い出し読みしながら振って貰った方が,聴く方が安心して聴けたのではと思います.
先日のスクロバチェフスキーでさえ,絶えず楽譜の表紙が譜面台上に見えていました.

オーケストラは,一貫して,なかなか締まった演奏でしたし,合唱団も,歌い慣れた感じで,好演だったと思います.ただ,全体にもっともっと潤いを含んだ曲のはずだという想いが離れませんでした.

ないモノねだりを書いてしまったようですが,私の率直な感想です.

 


トッパンホール:全盛期を迎えたイモジェン・クーパー(pf) [音楽時評]

10月24日,トッパンホールに,イギリスの女流ピアニスト,イモジェン・クーパーのリサイタルを聴きに行ってきました.ブレンデルのお弟子さんですが,日本には2008年以来の来日だと思われます.
かつて,NHK交響楽団の定期会員を長く続けていた当時,もう10年以上前にクーパーがソリストとして登場し,清冽なモーツアルトのジュノムを聴いた記憶が残っています.

1949年生まれといいますから,もう61歳になるのでしょうか,2007年にイギリスで叙勲していますから,内田光子より2年早く叙勲していることになります.

これだけの実力を備えた人の素晴らしい演奏会が満席でなかったのが,不可解ですし,凄く惜しまれます.とりわけ日本人の若手ピアノ学生たちがほとんど見られなかったのは,いったい,彼等,彼女等は何を教えられ,何を学んでいるのでしょうか.
日本音楽コンクールのピアノ部門,ヴァイオリン部門の本選会がが昨日と今日開催されたのは承知していますが,私は昨年までは聴きに行っていた本選会を今年から縁切りにしました.日本でまったく国際化されないで開かれている音楽コンクールに,すっかり愛想が尽きたからです.

今夜のプログラムは,次の通り,すごく内容豊かでした.
シューベルト:   3つの小品 D.946
ベートーヴェン:  ピアノ・ソナタ17番 ニ短調 Op.31-2 《テンペスト
          ※※※※※※※※
ブラームス:    主題と変奏 
原曲:弦楽六重奏曲1番Op.18 2楽章
シューベルト:   ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D958
でした.

シューベルト最晩年の「3つの小品」(ブラームスの校訂が加わっているといわれます)は有名な即興曲集にも並ぶ名品ですが,その第1曲目変ホ短調から,彼女の音の素晴らしさ,気品と情感豊かな美しさに身震いを感ずるほどでした.しかも小品といえども素敵な構築感で,曲の内面を弾き出していました.

「テンペスト」は,ごく最近別の若いピアニストで聴いた曲ですが,その記憶を払拭するほど,クーパーならではの力量が発揮されていました.曲の冒頭で僅か6小節の間にLargo, Allegro, Adagio と揺れ動くテンポが作り出す深い幻想と強烈なテンションが,クーパーの内面から醸し出される構築感に支えられて,聴衆を一気に彼女のピアノ世界に引き入れていました.2楽章の美しい叙情性を経て,第3楽章は一音一音を浮き上がらせるような彼女ならではの個性的な美しさに溢れていました.

ブラームスは小品ですが,これは弦楽六重奏曲のなかから華麗な第2楽章を,ブラームスが名ピアニスト,クララ・シューマンのために自らピアノ用に編曲したもので,たいへん幻想的な叙情性に溢れた曲でした.

シューベルトのピアノ・ソナタ第19番は,最晩年に残された3つの名作ピアノ・ソナタの1曲目ですが,ベートーヴェンの影響を強く受けているといわれます.特に第1楽章の第1主題はベートーヴェンの創作主題による32の変奏曲に,第2主題は同じく「悲愴ソナタ」との類似性が見られます.しかし展開部の幻想的な音形はシューベルトならではのモノです.第2楽章Adagio の主題はやはり「悲愴ソナタ」と似ていますがシューベルトならではの美しい歌うメロディが浮き彫りになります.第3楽章Allegro では,速いメヌエットで,シューベルト晩年の不安を滲ませたメロディが魅惑的です.第4楽章はロンドソナタ形式タランテラで,ベートーヴェンの作品31-3の終曲に似た流麗な旋律が何度も繰り返し現れますが,その中にリート形式の嘆きの歌が浮かび上がります.
この曲のクーパーの演奏は実にしっかりとした構成感で終始しました.シューベルトのD959と聴くのは今年3度目くらいですが(近く内田光子のD959, D960, D961 をサントリーホールで聴く予定ですが)今夜の演奏会のそれがなんといっても絶品でした.内田光子とはおそらく個性の差異に止まるでしょう.

クーパーの全盛期の演奏を聴けてたいへん幸せでしたが,まだまだ彼女の全盛期は続くでしょうから,来年もぜひ再来日して欲しいと心から願っています.
それにしても日本人ピアノ・フアンの何ともユニークな偏向は,NHKに代表されるマスコミが作り上げたものですが,これは何とかならないモノでしょうか!

 


武蔵野文化小ホール:デセール・ピアノリサイタル [音楽時評]

10月21日,武蔵野文化会館小ホールに,フランスから来日したクレール・デセールのピアノリサイタルを聴きに行ってきました.

今年5月のラ・フォル・ジュルネに多くの外国人参加予定者がキャンセルした中で,彼女は進んで来日し,彼女の人気がたいへん高まったといいます.堤さんの伴奏もこなしたそうです.
30代はじめと思われますが,正確には分かりません.名手とは言い切れませんが,なかなか気さくに,そして誠実に演奏する人という印象を受けました,

プログラムは,
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ17番 ニ短調 Op.31-2 「テンペスト」
ショパン:     夜想曲 第20番 嬰ハ短調 遺作
ショパン:     幻想曲 ヘ短調 Op.49
      ※※※※※※※※
ムソルグスキー: 展覧会の絵でした.

「テンペスト」はたいへん慎重,誠実に弾かれましたが,Ⅰ.Largo-allegro,Ⅱ.Adajio,Ⅲ.Allegrettto を情熱的に弾いてくれました.時にトレモロの乱れ,ミス・タッチがありましたが,全体を見据えたまとまりの良い演奏だったと思います.

ショパンは,夜想曲も幻想曲も,ちょっとショパンならではの情感,叙情性が十分には伝わらず,いささか不満が残りました.

「展覧会の絵」に彼女自身の力点が置かれていたように見受けました.

この曲はムソルグスキーが、彼の友人であったヴィクトル・ハルトマンの遺作展を歩きながら、そこで見た10枚の絵の印象を音楽に仕立てたものです.ロシアにとどまらずフランス、ローマ、ポーランドなどさまざまな国の風物が描かれており,また、この10枚の絵がただ無秩序に並ぶのではなく、「プロムナード」という短い前奏曲あるいは間奏曲が5回繰り返して挿入されるのが特徴的で、この「プロムナード」はムソルグスキー自身の歩く姿を表現しているといわれます.「プロムナード」、「古城」、「卵の殻をつけた雛の踊り」、「ビドロ」、「鶏の足の上に建つ小屋 - バーバ・ヤーガ」、「キエフの大門」など覚えやすいメロディーと緩急自在の構成(ユーモラスな曲、優雅な曲、おどろおどろした曲、重々しい曲など)から、ムソルグスキーの作品の中でももっとも知られた作品の一つになっています.

第1プロムナード 
 第1曲 小人(グノーム)
第2プロムナード 
 第2曲 古城
第3プロムナード 
 第3曲 テュイルリーの庭 - 遊びの後の子供たちの口げんか 
 第4曲 ビドロ
第4プロムナード
 第5曲 卵の殻をつけた雛の踊り
 第6曲 サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
第5プロムナード
 第7曲 リモージュの市場
 第8曲 カタコンベ - ローマ時代の墓
      死せる言葉による死者への呼びかけ
 第9曲 鶏の足の上に建つ小屋 - バーバ・ヤーガ  
第10曲キエフの大門
という,プロムナードを含めて15曲構成です.

デセールは,パリ音楽院修士課程からチャイコフスキー音楽院に留学した経験を踏まえて,この曲への彼女なりの思い入れを加え,たいへん深みのある,重厚な演奏を展開してくれたと思います.

来年のラ・フォル・ジュルネでは,彼女が何を聴かせてくれるにせよ,注目しておきたいと思います.


オペラシティ:スクロヴァチェフスキー指揮,SKドイツ放送フィル [音楽時評]

名前が長いのは,先日のベルリン放送交響楽団が,2年前に,ベルリン・ドイツ交響楽団(やはり放送交響楽団)と合併しようとして,ドイツ交響楽団側がヤノフスキーの指揮下に入ることに強く抵抗して話がご破算になったのに対して,この長い名前のザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団は合併に成功したため,名前が長くなったのです.

先日のヤノフスキー,ベルリン放送交響楽団の演奏水準には疑問を感じましたが,ご丁寧に10月下旬にはもう一方のベルリンドイツ交響楽団(これも放送交響楽団)が来日し,佐渡裕指揮で各地で演奏会を予定しています.ヤノフスキーはNHK音楽祭でしたが,佐渡裕はTBSがバックしています.もっともベルリンドイツ交響楽団のMusic Director は来年から期待の大物若手指揮者トゥガン・ソヒエフ(34歳)の就任が決まっていますから,疑いなくこちらの方が演奏水準は上だと思います.因みに,ケント・ナガノがかつて音楽監督を務めていました.

余談になりましたが,SK(略称)は,今秋からカレル・マーク・チチヨンが音楽監督で,スクロヴァチェフスキーは首席客演指揮者だそうです.
なお,スクロヴァチェフスキーは,今年年末のNHK交響楽団のベートーヴェン第9交響曲の連続演奏会指揮者に予定されています.

SKは19,20日とオペラシティで公演しましたが,昨夜はブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」,今夜が同じブルックナーの第9番交響曲でした.私は,ウイーンフィルで「ロマンティック」を聴きましたから,比較してしまうのが嫌で,第9番のチケットにしました.

今夜のプログラムは,
シューマン:  交響曲第4番 ニ短調 op.120
※※※※※※※
ブルックナー: 交響曲第9番 ニ短調
でした.

シューマンの4番は,クララとの結婚後間もなく完成され,クララに捧げられた曲ですが,4楽章構成をアタッカで全楽章が続けて演奏される形式への改訂の時期をとって,最後の交響曲となっています.
第1楽章はやや重苦しい序奏に始まり,悲哀を訴えるような主部が続きます,第2楽章でもメラコリックな部分と夢想的な部分が入り混じります.第3楽章はドラマティックな部分ですが,循環形式でこれまでの主題が繰り返されたりして,金管の斉奏をブリッジにして終楽章に入り,暗から明への意図を明確にして曲を閉じます.
オーケストラの右側の2階席から見下ろしていたので,スクロヴァチェフスキーの指揮がよく見えたのですが,譜面台に置かれた楽譜は表紙のままで,暗譜で,ほとんど両手の上下だけで指揮していました.それでもリハーサルが行き届いていたのでしょうが,各パートがたいへん綺麗な響きを聴かせていましたし,アンサンブルも見事で,さらにソロで長いフレーズを弾いた女性コンサートマスタも鮮やかで,滅多に聴けないような名演でした.
この位置でオケを聴くのは,トリフォニーの新日フィル以来ですが,今夜の音の輝きには感嘆しました.

今夜の名演はさらにスクロヴァチェフスキーお得意のブルックナーでした.今夜は,最近の傾向に従って,オリジナル版,つまりブルックナー自身の手で完成された3楽章までの構成で演奏されました.
楽器編成が一段と大きくなり,ホルン8本を間近に見るのは初めてでしたが,前に聴いたウイーンフィルで気になったようなホルンの音の濁りは,まったく聴こえませんでした.
「厳粛さをもって,神秘的に」の第1楽章は,3つの主題を持つソナタ形式で,展開部ではそれが融合されて現われます.とにかく木管のオーボエ,フルート,クラリネット,ファゴット,そして金管のトランペット,トロンボーン,ホルンが間近で鳴り響くのですが,五弦もステージ右手前に位置したチェロ,私のほとんど真下にいたコントラバス,その前のヴィオラの重厚な音がよく聞けましたし,高音の第1,第2ヴァイオリンも透き通って良く聞こえました.
第2楽章「躍動的に,生気に満ちて」では,有名なブルックナー旋律ダ,ダ,ダッダ,ダ,ダ,ダッダのピチカート音型が音程を上げたり下げたりしながら鳴り響いていました.ホルン8本がことのほか壮観でした.
第3楽章「緩やかに,厳粛さをもって」では,ホルンの8人の内4人がワーグナーチューバと持ち替えていましたから.また彩りが豊かになっていました.「抒情的な静けさと畏怖の念をもつ音楽」と呼ばれますが,ワーグナーチューバに荘厳なコラール風の主題が挿入されます.第1楽章第1主題を暗示したこの主題を,ブルックナーは「生との訣別」と呼んだと伝えられています.
いったん静まって,弦楽が主題を奏しはじめますが,次第に木管,金管に広がって,新たな主題に発展し盛り上がります.やがてホルンの動機を加えつつ、最終的にはワーグナーチューバが不協和音を奏で,フルートがコーダに登場する伴奏音形を予告する形で総休止となり,コーダに入ります.そこでは,第7交響曲の冒頭主題や第8交響曲のアダージョ主題をワーグナーチューバで回想し静かに全曲を閉じます.
ブルックナーの最後のそして畢生の大作と呼んでよいのでしょう.たいへんな名演奏の聴きモノでした.

私は大野和士指揮でベートーヴェンの第9を聴きますが,スクロヴァチェフスキーの第9も,さぞかし名演を展開してくれるのではないでしょうか.ますますのご壮健を祈りたいと思います.


サントリー:エッシェンバッハ指揮ウイーンフィル [音楽時評]

10月17日,サントリーホールに,ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団を聴きに行ってきました,ウイーン・フィルハーモニーウイーク2011ということで,選択肢は広かったのですが,ブルックナーに惹かれて,ブルックナーの「ロマンディック」中心のプログラムに絞って聴いてきました.
超有名ピアニスト,ラン・ランがリスト年に因んでピアノ協奏曲第1番を弾くプログラムがA,B,Cとあり,そのなかのAは,ラン・ランのリスト協奏曲とブルックナー「ロマンティック」という凄い組み合わせでしたが,それは横浜広島で,東京ではその2つの組み合わせはなく,「ロマンティック」中心で,モーツアルトの比較的珍しい交響曲34番とを組み合わせたプログラムでした.

エッシェンバッハは,元々はピアノの名手として知られた人で,今回もモーツアルトのピアノ協奏曲 イ長調 K488から第2楽章を弾き振りし,加えてバリトンのマティアス・ゲルネを加えたマーラー:『少年の魔法の角笛』とシューベルトの「未完成」というプログラムがプログラムE,F とあり,今夜のそれはプログラムDでした.

なお,エッシェンバッハはフィラデルフィア菅のMusic Director(2003~2008)をパリ菅のMusic Derector (2000~2010) と兼任しましたが,フィラデルフィアでは地元紙のMusic critic と最初から折り合いが悪く,Community 関係を築けないまま,短期で退任したことが,現在のフィラデルフィア菅の破産状態の遠因となったといわれます.現在はワシントンのNational Symphony とKennedy CenterのMusic Director として活躍しています. 

今夜のプログラムは,
モーツアルト:  交響曲第34番 ハ長調 K338
          ※※※※※※※
ブルックナー:  交響曲4番 変ホ長調「ロマンティック」 WAB 104
でした.

今夜のプログラムは,オーストリアで用意されたモノを翻訳した,これこそプログラムという読みやすいモノで,しかも無料配布でした.先日の第1生命ホールのチャリティ室内楽も是非そうして欲しかったと思います.

モーツアルトの第34番はあまり演奏されない曲ですが,ザルツブルグからウイーンに移る前に書かれた曲で,あまり革新性の乏しかった土地のスタイル,急ー緩ー急の3楽章構成になっています.実際にはもう1楽章メヌエットが用意されたのに用いられず,ウイーンで書かれた次の第35番「ハフナー」から4楽章構成に拡充された端境期の作品でした.
最終楽章の後半で,オーボエがたいへん活躍し,オーボエ協奏曲の感じの内に曲が閉じられます.
たいへんオーケストラの五弦と木管が綺麗で,それだけでも楽しめる曲でした.

ブルックナーの第4番「ロマンティック」はウイーン楽友協会で初演され,ブルックナー最初の大成功を収め,その地位を確立したといわれます.
第1楽章冒頭にホルンが主題を吹きますが,これは教会で朝を知らせるラッパの響きを取り入れたモノといいます.ただ,ター(高),ター(低),ター(中)の終わりに入る転換点の音がちょっと不自然に響いたところがあり,ハッとしましたが,あとは全く文句なしの名演に終始しました.
エッシャンバッハはウイーンフィルとこの曲をレコーディングしたCDがロビーに並んでいましたから,エッシェンバッハはすっかりこの曲とウイーンフィルとの関係を手中に収めていたようで,後方から見ていても,両腕を大きく広げたすこぶる分かりやすい指揮をしていました.
プログラムに書かれていたブルックナーが弟子にこの曲について説明した言葉を引用しておきますと,「1楽章,第3楽章は戸外の偉大な自然に耳を澄ませているかのような雰囲気であり,2,第4楽章のほとんどの部分は,魂の内面をそのまま表現しているかのような音楽である」とありますが,何よりもその規模の雄大さに圧倒される音楽でした.
それをウイーンフィルとエッシェンバッハという貴重な組み合わせで,心から楽しめた一夜でした.

ウイーンフィルは回数が多かった故もあって,チケットが何とかなりましたが,ベルリンフィルは3回のうち2夜やるマーラーの第9を狙ったのですが,全然手が届きませんでした.
それで,4万円払うならと,代わりにBerlin Philharmony がやっているDigital Concert Hall に申し込みました.ほんのちょっぴり円高の恩恵にあずかって,フル画面で楽しめますから,マーラーの9番をこれから探します,

追記:ベルリンフィルの Digital Concert Hall を調べましたら,来日直前の11月5日に,来日準備の意味も込めて,マーラー交響曲第9番の Concert Hall からの放映が予定されています.
ただ,皆様に余りお薦めできないのは,時差の関係があって,深夜,午前3時からの開演となっていることです.
もちろん,暫くしたら,アーカイブに入るでしょうから,後で見ることも可能でしょうが,まあ,日本では,幸い,日曜日の早朝となりますから,私はチケットを首尾良く入手された皆さんより一足お先に楽しみたいと考えています.


第一生命ホール:ウイーンフィル室内楽チャリティ・コンサート [音楽時評]

久しぶりに第一生命ホールにウイーン・フィルメンバーによる室内楽チャリティ・コンサートを聴きに行ってきました.出演はウイーン・ムシークフェライン弦楽四重奏団にクラリネットのペーター・シュミードルが加わっていました.

まずたいへん驚いたのは,私がまだ日本の弦楽四重奏団を選ばずに聴いていた(今は東京クァルテット,アルティ,アルモニコに限定して聴いています)頃には,このホールでチケット完売は見たことがなかったのに,今夜は完売していたことです.これは優秀な楽団を迎えれば,このホールでも満席になることがあるということで,認識を新たにしました.

メンバーは,
第1ヴァイオリン: ライナー・キュッヒル
第2ヴァイオリン: エックハルト・ザイフェルト
ヴィオラ:      ハインツ・コル
チェロ:        ゲアハルト・イーベラー
+クラリネット:   ペーター・シュミードル
でした.

プログラムはオール・モーツアルトで,
弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K.458 「狩」
弦楽四重奏曲第21番 ニ長調 K.575 「プロイセン王第1番」
        ※※※※※※※※
クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
でした.

チャリティ・コンサートですから,満点を期待すべきではないことを承知の上で,それでも率直にいいますと,ウイーンフィルの来日に先駆けて来日し,自分たちの弾き慣れた曲を並べて,それなりに上手に弾いてくれたという印象でした.
もちろん,日本のクァルテットにあまり見られないチェロの名手が入って,アンサンブルは見事でしたが,各パートが十二分の美音を出して,十全にフレージングしていたとは思われませんでした.
それはクラリネット五重奏曲についてもいえます.必ずしも十分に実力の程を示してくれたとは思えなかったのです.

ただ,開演前後からかなりの雨量でしたし,滅多に見ない満席でしたから,私の体感でいっても,ホール内の湿度はかなり上がっていたのではないでしょうか.中央通路左側最前列から2列目左へ2人目の男性が,ずーっとプログラムで顔を仰いでいたのが,後方の席からたいへん気になりました.ホール側はこの湿度に果たして適切な対応をとったのでしょうか?この時期にしては,ホール内は上着を脱いだ白シャツ姿で溢れていたようですが?
それは,この2週間ほどの間,他のどのほぼ満席のホールでも見かけなかった光景というべきです....

私がこれまで何度か王子ホールで聴いたあのウイーン・ムジークフェラインの完璧なレベルではなかったというのは,私の高望みに過ぎるのかも知れませんが.

ポピュラーな曲揃いですから,内容に立ち入りませんが,私の全体的な受け取り方を書き留めました.
今年のグラモフォン賞に輝いたパベル・ハース(浜離宮朝日ホール)や名声を誇るジュリアード(紀尾井ホール)が近々来日しますから,ホールの条件も考慮して,それらと聞き比べたいと考えます.

 


NHKホール:NHK音楽祭,ベルリン放送響,ヤノフスキー,河村尚子 [音楽時評]

10月12日,NHKホールに,NHK音楽祭2011「華麗なるピアニストたちの競演」第3夜,マレク・ヤノフスキー指揮,ベルリン放送交響楽団,ソリストに河村尚子というコンサートを聴きに行って来ました.

NHK音楽祭5夜の内,いち早く完売になったのは,アシュケナージ指揮,シドニー交響楽団,キーシン(pf)という組み合わせだけで,今夜も80~90%の入りというのは,NHK音楽祭も曲がり角というべきなのではないでしょうか.
今夜と同じ組み合わせのコンサートは,2日前にみなとみらいホールでも開催され,その1週間前には得チケ扱いになっていたのです.

今夜のプログラムは,まさに名曲揃いで,
ウェーバー:   歌劇《魔弾の射手》 作品77序曲
バートーヴェン: ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73 《皇帝》
       ※※※※※※※※
ベートーヴェン: 交響曲第3番 作品55 《英雄》
でした.

なお,長らく東ベルリンにあったベルリン放送響交響楽団は,2年ほど前に,ベルリン・ドイツ交響楽団(やはり放送交響楽団)との統合案が検討され大きな話題になったのですが,後者を吸収合併する形式に反発が高まり,取りあえずベルリンのふたつの放送オーケストラが併存することになっています.ちなみに両オーケストラは、ドイツ連邦共和国(35%)、ドイッチュラントラジオ(40%)、ベルリン州(20%)、ベルリン・ブランデンブルク放送(5%)が共同出資するROCベルリンという運営団体の傘下にあります.

《魔弾の射手》序曲は,前半は極めてゆったりとしたテンポで演奏され,途中からよく聴くテンポに代わってちょっとびっくりさせられました.
同じようなテンポの恣意的な動かしようは,後半の《英雄》でも見られ,かなり早い第1楽章にやはり驚きました.
テンポの恣意的な扱いは,きっとリハーサルでかなりそのために時間が割かれてしまって,どうもアンサンブルないし各パートの音の統一性が疎かになってしまっているようで,五弦をはじめ,複数の管楽器間でも音の澄んだ響きが聴かれませんでした.《魔弾の射手》の3本のホルンは,音を外しはしませんでしたが,3本が揃った美音を出してはいませんでした.
ただ,際だって上手かったのは,オーボエの首席でした.《英雄》では,この人の音が他の管楽器群からその美音を浮き上がらせて,よく響かせていました.

今夜の圧巻は,河村尚子でした,《皇帝》では,彼女のピアノがたいへん美麗な音を響かせて,オーケストラを圧倒していました.ここでは,流石に,ヤノフスキーも彼女のテンポに合わせていましたから,1楽章が始まってほとんど直ぐにピアノが入りますから,ほとんど河村尚子の独壇場になっていました.3年ほど前に,彼女が《皇帝》を弾きたいと語っていたのを覚えていますが,日本のオーケストラやヨーロッパのオーケストラで何度も弾き込んできていますから,本当に,奔放に楽しんで弾いていたように見受けられました.
なお,河村尚子は,アンコールに,シューマン作曲の歌曲をリストがピアノ用に編曲した「献呈」を実に見事な名演奏で聴かせてくれました.

今年は,先日私がブログで絶賛したトリフォノフはじめ,ベレゾフスキー,アンスネス,ゼルキン,ユジャ・ワンといった優れたピアニストを聴く機会に恵まれましたが,さらに河村の大先輩の内田光子がシューベルト最晩年の3曲のソナタを弾くのを聴く予定で,これをたいへん楽しみにしています.河村尚子は同じ3曲のうちの D 959をレコーディングしていますから,そのレベルを計ることが出来そうです.



 



 


武蔵野文化小ホール:マントゥー・オルガン・リサイタル [音楽時評]

10月10日,武蔵野文化小ホールに,クリストフ・マントゥー・オルガン・リサイタルを聴きに行ってきました.マントゥーは,第7回武蔵野市国際オルガンコンクールに,第1次選考の審査委員長として来日したモノです.

マントゥーは,教職の傍ら,1986~1992年,シャルトル大聖堂首席オルガン奏者,1995年からはパリのサン・セヴラン教会首席オルガン奏者を務めている実力者です.

今日のマチネーのプログラムは,オール・ヨハン・セバスティアン・バッハで,
前奏曲とフーガ イ短調 BWV543
「いと高きにある神にのみ栄光あれ」 BWV663
コラール変奏曲「恵み深きイエスよ,よくぞ来ませり」 BWV768
            ※※※※※※※※
協奏曲 ニ短調 BWV596
トリオ・ソナタ 第6番 ト長調 BWV530
前奏曲とフーガ ホ短調 BWV248
でした.

最初と最後の”前奏曲とフーガ”は文字通り,プレリュードとフーガの2楽章構成ですが,前者は約10分,後者は約15分と,後者の規模が大きく,それだけオルガンのダイナミズムがよく表現されていました.

「いと高きにある神にのみ栄光あれ」は,崇高さを表現する響きを感じさせるモノでした.
それに較べて,コラール変奏曲は,10を超える変奏曲が華麗に展開されて,前半の締めくくりとして,たいへん聴き応えがありました.
協奏曲はヴィヴァルディを参照した作品だそうですが,4楽章構成で,Allegro-Grave; Fuga; Largo e spiccato;
Allegro と緩徐楽章が入って,ソナタを思わせる名品でした.

トリオ・ソナタは,オルガンの鍵盤,ペダル,両脇にあるいくつものボタンを駆使した,オルガンの多彩さを感じさせる逸品でした.

全体に,オルガンの機能をフルに使って,音量豊かに,端正に好演されたと思います.


 


【短信】Venezuela 出身の新鋭指揮者 [音楽時評]

Ever since Gustavo Dudamel made the first breakthrough, half a dozen sistema conductors have launched careers on the international foothills, among them Diego Matheuz(日本から西欧音楽を発信する?サイトウキネンで好演), Carlos Izcaray (presently at Wexford Opera), Ana María Raga and Ilyich Rivas. Who’s next? 
といわれてきましたが,Christian Vasquez がノルウエーの Stavanger Symphony Orchestra の chief conductor に任じられたそうです.

世界トップ・クラスの豊かな国ですから,来年には,真新しいホールが完成するそうで,彼の将来にさらに大きなプラスが加わる予定です.

Just in: young Venezuelan lands a European orchestra

He’s a sistema graduate, 27 years old, and he’s just been named chief conductor by the Stavanger Symphony Orchestra, in Norway. His name is Christian Vasquez. Bookmark it.

Here’s the agent’s bio and promo pic.

Christian Vásquez

Stavanger, Norway’s oil capital, will get a brand new concert hall next year. Christian could be on a roll.

Ever since Gustavo Dudamel made the first breakthrough, half a dozen sistema conductors have launched careers on the international foothills, among them Diego Matheuz, Carlos Izcaray (presently at Wexford Opera), Ana María Raga and Ilyich Rivas. Who’s next?


Anne Midgette: Domingo の指揮へのNegative Review [音楽時評]

このReview自体は,少し旧聞に属しますが,その後,Domingo サイドからWashington Post 宛に,公開の反論が寄せられて,昨年のCleveland のMusic Director, Welther-Mest に対するInquirer のreviewer が恒常的なNegative Review を続けて,職を追われ,提訴して敗訴した例を思い出しましたので,この両者の対立を興味深い話としてご紹介したいと考えました. 

Anne Midgette は長くNew York Times でMusic Review の主筆を勤めてからWashingyon Post に移った人で,アメリカでいわば最も敬意を寄せられている人ですから,Domingo の側が訴えを起こすことはないでしょうが,Anne は, a sign of personal bias とDomingo が書いていることに強く反論しているのです.

ここでは, Placido Domingo has expressed in print, in a letter to the editor, his conviction that I have a personal animus against him, based on my negative review of his conducting of the Washington National Opera’s Tosca. つまりDomingo は,Anne が彼に対して個人的敵意を持っていると確信していると書いたことに,強く反発しているのです.

neither past nor present fandom can blunt my ear to things I don’t like. I have been very tough on his tenure as general director of the Washington National Opera.

I found his performance on the opening night of “Tosca” dismaying. When I wrote the review, I didn’t even realize that Mr. Domingo only came into town shortly before the dress rehearsal, and that the performance I heard was extremely underrehearsed; but this fact only confirms my sense that he could have done much, much better.

I’m sorry that an artist of his stature, faced with evidence that I admire him as a singer but not as a conductor, chooses to dismiss criticism as a personal attack, rather than the response of someone who believes him capable of representing the very best.

この結びは,誠に穏当な表現で,見事な反論だと考えます.

Posted at 10:46 AM ET, 10/01/2011

Placido Domingo and questions of bias

In Saturday’s Washington Post,

Mr. Domingo has expressed the same conviction to me in person more than once, in interviews which I was recording. Since the word “defamatory” is strong language, I wanted to respond in print in the same way I have responded to him in person each time we have discussed this issue (in interviews that were, from my point of view, a pleasure and a privilege to conduct).

Placido Domingo demonstrates that he remains an important and magnificent singer at the 2009 Metropolitan Opera gala.

I have admired Mr. Domingo tremendously as a singer since the dawn of my operatic consciousness: his “Otello,” his Cavaradossi, his Arrigo on the recording of I Vespri Siciliani (complete with a high D, thank you very much). Since I came to Washington, I have expressed that admiration, praising his performances in Tamerlano, in Iphigenie en Tauride, in Il Postino; I even enjoyed his foray into the baritone territory of Simon Boccanegra, though many critics did not. It has been an abiding source of regret to me that I was not able to review for the Post his excerpts of “Otello” at the Metropolitan Opera gala in 2009, which I count among my most memorable moments in the opera house. The most recent feature story I wrote about Mr. Domingo in the Washington Post (Placido Domingo: At 70, A Voice for the Age) reflects my feelings about this fine artist.

But neither past nor present fandom can blunt my ear to things I don’t like. I have been very tough on his tenure as general director of the Washington National Opera.

And I have certainly been critical of some of Mr. Domingo’s forays into conducting. I am far from the only critic to feel that his conducting is not at the same top-flight international standard as his singing; indeed, audiences have expressed the same opinion.

I am saddened that Mr. Domingo sees this criticism as a sign of personal bias. He has mentioned to me a 2004 New York Times review of Madame Butterfly several times as evidence of my supposed animosity, though I believe that my evocation of an Olympic weightlifter struggling to lift a burden and ultimately succeeding was, in fact, giving him the benefit of the doubt. (The idea that my joke about the audience applauding the cherry blossoms was a reflection on his work is clearly a misreading of my intention.)

But I found his performance on the opening night of “Tosca” dismaying. When I wrote the review, I didn’t even realize that Mr. Domingo only came into town shortly before the dress rehearsal, and that the performance I heard was extremely underrehearsed; but this fact only confirms my sense that he could have done much, much better.

I am surprised that Mr. Domingo takes such exception to this review, since, as he himself has told me, an artist knows when he has done well or badly. I can’t believe he feels in his heart that this “Tosca” represented his finest hour.

And I’m sorry that an artist of his stature, faced with evidence that I admire him as a singer but not as a conductor, chooses to dismiss criticism as a personal attack, rather than the response of someone who believes him capable of representing the very best.

By | 10:46 AM ET, 10/01/2011


オペラシティ:ベレゾフスキー・ピアノ・リサイタル [音楽時評]

10月7日,オペラシティに,一昨日サンタ・チェチーリア菅のソリストを務め,ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を好演したボリス・ベレゾフスキーのピアノ・リサイタルを聴きに行ってきました.

ベレゾフスキーは超絶技巧と強靱なピアノ・タッチの持ち主で,2012年にはベルリン・フィルとの協演が予定されている傑出したピアニストです,
今年はピアノの名手だったリストの記念年で,リスト関連の音楽界が少なくありませんが,今夜は超絶技巧練習曲を含むプログラムでした.

プログラムは,
メトネル:   おとぎ話 6曲
ラフマニノフ: 前奏曲集(調性を異にした全10曲) op.23
       ※※※※※※※※
リスト:     超絶技巧練習曲集 S.139
でした.

メトネル(1880-1951)は,ラフマニノフとほぼ年代が重なるのですが,1921年からイギリスに亡命していたこともあって,これまで余り顧みられなかったモノが,近年,ピアニストのレパートリーに加わってきた作曲家で,ピアノ中心ですが,
調性音楽に踏みとどまった叙情と旋律美に溢れた作品を残しています.彼の死後,妻アンナが自筆譜をソ連に持ち帰って全集出版を果たして,ロシア人ピアニストによって積極的に取り上げられるようになっています.
「おとぎ話」はいくつも書かれているのですが,今夜は,作品番号を超えて,6曲がピックアップされて演奏されました.いずれも叙情味溢れる曲が,ベレゾフスキーによってたいへん旋律豊かに好演されました.なかに馴染み深い旋律が現れて感銘を受けました.

ラフマニノフは,平均律音階の24の前奏曲を残していますが,ひとまとまりではないので,今夜はop.23 の10の前奏曲(調整を異にする)が演奏されました.ラフマニノフらしく,大いにダイナミズムの加わった難易度の高い曲集でしたが,ベレゾフスキーのお得意の作品らしく,超絶技巧を交えて,たいへんダイナミックに好演されました.

最後のリストの超絶技巧練習曲集はやはり調性を異にした12曲ですが,ベレゾフスキーは1995-6年に既にレコーディングしており,本当に,両手が鍵盤を駆け巡る超絶技巧を要する曲集を,まったく自家薬籠中のモノのように,広いダイナミックレンジを使って,絢爛たる豪華さと豊かな叙情性を兼ね備えて,目映いばかりの名演奏を展開してくれました.

現代のピアノの大家の1人に数えられる名手だと思いますが,2夜にわたって,名演奏を楽しむことが出来ました.
次の来日の機会が待たれる逸材です.


【短信】Jakub Hrůša がRoyal Danish Opera Music Director [音楽時評]

東京都交響楽団の首席客演指揮者Principal Guest Conductor である ヤコブ・フルシャが,Royal Danish Opera のMusic Directorに来年から就任するそうです.

Music Director and Chief Conductor, Prague Philharmonia
Music Director, Glyndebourne on Tour
Principal Guest Conductor, Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

に加えて,30歳で,もう一つの重要ポストMusic Director Designate, Royal Danish Opera に決定したというのですから,たいへんお目出度い出来事ですし,ますます中間層を飛び越えて,若手が主要ポストに就き始めている実情を見る気持ちです.

とりあえずのご紹介まで.

Royal Danish Opera appoints new music director

 Jakub Hrůša - Danish post (photo: Zbynek Maderyc)

Jakub Hrůša to take on role from 2013

Jakub Hrůša - Danish post

Czech conductor Jakub Hrůša will take on the music directorship of the Royal Danish Theatre and its associated opera company from August 1, 2013.

Hrusa, 30, is currently music director of both Glyndebourne on Tour and the Prague Philharmonia, and will serve as an artistic consultant to Denmark’s flagship theatrical organisation until his arrival in Copenhagen.

This year has seen high-profile departures from the subsidiary Royal Danish Opera, as music director Michael Schønwandt and artistic director Kasper Holten – both native Danes – left the company.

Artistic director of the opera Keith Warner today described Hrusa as the ‘perfect man’ for the job. Warner was charged with appointing a new musical leader as soon as he arrived in Copenhagen in June. In line with Denmark’s stringently open democracy, the post was advertised and Hrůša applied along with 147 other musicians.

Gramophone’s June issue listed Hrůša as one of ten young conductors ‘on the verge of greatness’. With Glyndebourne’s touring arm the Czech musician has proved a distinct success; liked by musicians for his combining of firm interpretative ideas with a sound work ethic and humble, friendly demeanour. He conducted the Royal Danish Opera’s production of Boris Godunov in January 2011 and became, in Warner’s words, ‘hugely beloved and admired by our orchestra, chorus and soloists’.

With Hrůša’s new post comes the default music directorship of the Royal Danish Orchestra, which has a good claim to be the world’s oldest orchestra with its organisational roots stretching back to 1448. For opera and ballet productions the ensemble plays in the pit of the ‘old stage’ in central Copenhagen and of the new Operaen on the island of Holmen – a gift to the Danish people from the Maersk shipping dynasty, which opened in 2005.


2011年 Gramophone awards [音楽時評]

クラシック音楽界では,かなり有名なAwards が10月6日に発表されました.

なかで特に注目されたのが,さまざまな視聴者のオープンな投票によって決まる,2011年artist of the year ですが,かの有名な Gustavo Dudamel に決定されました.
彼のLos Angels Philharmony Music Director就任前後からの目覚ましい活躍振りから,きわめて妥当な選出だと考えます.記事にはrecent murmurings questioning the adulation と言及されていますが,Gramophone 誌の読者層はそれに与しなかったようです.

There might have been recent murmurings questioning the adulation that has come Gustavo Dudamel's way, but Gramophone readers were in no doubt of the talent and charisma of the Venezuelan conductor, voting him their artist of the year at today's Gramophone awards. The award was presented by culture minister Ed Vaizey, who has called Dudamel "the coolest conductor in the world today".

個別の賞の中で注目されるのは,Label の賞が,the label of the year title went to Wigmore Hall Live, the first live label to win the prestigious award. Wigmore Hall's recording arm is only six years old, but the excellence of the central London hall's revered acoustic has made it a critical and artistic favourite.  とWigmore Hall に与えられたことです.

次に演奏家のレコーディングについては,The grand prix of the Gramophone awards – the recording of the year – was awarded to the Pavel Haas Quartet for their album of Dvořák Quartets op 106 and op 96. と Pavel Haas Quartet に与えられたのが大いに注目されます.同Quartet は11月中旬に来日予定です.

DVD documentary で,Carlos Kleiber が挙がっているのは懐かしい限りです.ピアノでは Murray Perahia (Sony Classical)が挙がっています.

あとは,どうぞお好きなようにご渉猟下さい.

Gustavo Dudamel named artist of the year at Gramophone awards

Pavel Haas Quartet and the Wigmore Hall Live label also among winners at classical music award

Gustavo Dudamel
Gramophone award … conductor Gustavo Dudamel named artist of the year. Photograph: Chris Lee/AP

There might have been recent murmurings questioning the adulation that has come Gustavo Dudamel's way, but Gramophone readers were in no doubt of the talent and charisma of the Venezuelan conductor, voting him their artist of the year at today's Gramophone awards. The award was presented by culture minister Ed Vaizey, who has called Dudamel "the coolest conductor in the world today".

Also at Wednesday's ceremony, the label of the year title went to Wigmore Hall Live, the first live label to win the prestigious award. Wigmore Hall's recording arm is only six years old, but the excellence of the central London hall's revered acoustic has made it a critical and artistic favourite. Their win gives the lie to the doom-mongers who predict the death of the classical music recording industry: Wigmore Hall Live is demonstrating how new, smaller and more imaginative business models can succeed. Andrew Clements, the Guardian's chief classical music critic, said: "The Wigmore Hall has been able to reflect the high standard of its recital in discs that reach a much wider audience."

The special achievement award was presented to Sir John Eliot Gardiner, marking the completion of his 11-year Bach Cantata Pilgrimage that saw the Monteverdi Choir and English Baroque Soloists perform all of Bach's surviving church cantatas and led the conductor to launch his own record label, Soli Deo Gloria, when Deutsche Grammophon – with whom he was on contract – declined to adopt his Bach project.

The grand prix of the Gramophone awards – the recording of the year – was awarded to the Pavel Haas Quartet for their album of Dvořák Quartets op 106 and op 96. Gramophone's team of 47 critics chose this as the most outstanding of the 1,000-plus albums released last year. The young Czech quartet formed in 2002 and have made a speciality of their country's music. Their first recording won them 2007's Gramophone award for chamber music, and today's award confirms them as one of Europe's up-and-coming quartets.

One of the world's most celebrated mezzos, Dame Janet Baker, received the lifetime achievement award, while Montenegrin guitarist Miloš Karadaglić was named young artist of the year.

Other category winners:

Editor's choice
Rossini: Stabat Mater; Netrebko; DiDonato; Brownlee; D'Arcangelo; Santa Cecilia Chorus and Orchestra / Antonio Pappano (EMI Classics)

Baroque instrumental
CPE Bach: Harpsichord Concertos. Andreas Staier; Freiburg Baroque Orchestra / Mullejans (Harmonia Mundi)

Baroque vocal
Handel: Apollo e Dafne. La Risonanza (Glossa)

Chamber
Dvořák: String Quartets. Pavel Haas Quartet (Supraphon)

Choral
Elgar: The Kingdom. Hallé Orchestra / Sir Mark Elder (Hallé)

Concerto
Debussy, Ravel, Massenet: Concertante piano works. Jean-Efflam Bavouzet; BBCSO/Tortelier (Chandos)

Contemporary
Birtwistle: Night's Black Bird. Hallé Orchestra/Ryan Wigglesworth (NMC)

DVD documentary
Carlos Kleiber: Traces to Nowhere – a film by Eric Schultz (Arthaus)

DVD performance
Verdi: Don Carlo. Villazón; Poplovskaya; Keenlyside/Antonio Pappano (EMI)

Early music
Striggio: Mass in 40 parts. I Fagiolini/Robert Hollingworth (Decca)

Historic
Mahler/Cooke: Symphony No 10. Philharmonia, LSO/Berthold Goldschmidt (Testament)

Instrumental
Brahms: Handel Variations etc. Murray Perahia (Sony Classical)

Opera
Rossini: Ermione. Geoffrey Mitchell Choir, London Philharmonic Orchestra/David Parry (Opera Rara)

Orchestral
Shostakovich: Symphony No 10. RLPO/Vasily Petrenko (Naxos)

Recital
Verismo Arias. Jonas Kaufmann; Santa Cecilia/Antonio Pappano (Decca)

Solo vocal
Britten: Songs and Proverbs of William Blake. Gerald Finley; Julius Drake (Hyperion)


オペラシティ:ローマ・サンタ・チェチーリア菅演奏会 [音楽時評]

10月5日,オペラシティ武満メモリアルに,ローマ・サンタ・チェチーリア菅弦楽団のコンサートを聴きに行ってきました.指揮は音楽監督のアントニオ・パッパーノ,ピアノ共演者にボリス・ベレゾフスキーでした.

プログラムは,
プッチーニ:        交響的前奏曲
ラフマニノフ:        ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
             ※※※※※※※
リムスキー・コルサコフ: 交響組曲「シェラザード」op.35 
でした.

ローマ.サンタ・チェチーリア管弦楽団は,1888年創設のイタリア最古のオーケストラで,最高のレベルを誇る名門オーケストラですが,私には初体験でした.指揮界の将来を担うイタリアきっての若きマエストロ、パッパーノが2005年に音楽監督に就任して以来,2度目の来日だそうです.

パッパーノはイタリア人の両親のもとにロンドンで,1959年に生まれていますから,イギリスでも重視され,ノルウェー歌劇場,ベルギー王立歌劇場(後任は大野和士)を経て,2002年からロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス音楽監督の地位にあり,2005年からは,ローマ・サンタ・チェチーリア菅弦楽団の音楽監督を兼任している才人です.比較的背の低い人ですが,両腕を大きく上下に振って,たいへん大きな指揮をして,オーケストラの力をフルに発揮させていました.
ボリス・ベレゾフスキーは,1969年モスクワに生まれ,若くして1990年にチャイコフスキー国際コンクールで優勝し,世界的に活躍しています.

ローマ・サンタ・チェチーリア菅弦楽団は,たいへん明るい音を,まことにバランスの良い管弦楽の響きに乗せて,すっごく幅広いレンジで演奏する希に見るハイ・レベルのオーケストラでした.

プッチーニの交響的前奏曲は,比較的短い曲ですが,このオーケストラの素晴らしい音響にまず驚きました.

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は名曲中の名曲ですが,次のようなピアノの序奏から始まり,やがてオーケストラが

が入って盛り上がります.そして,耳に焼き付いてしまうような主題旋律がオーケストラで入ります.

このメロディは,この曲を1度聴いたら忘れがたいモノにしています.より抒情的な第2主題は、まずピアノに登場し,オーケストラに広がります.ピアノがオケに押されるようなところで,ピアノはかなり超絶技巧の演奏を目立たない形で展開していきます.
第2楽章では,ピアノのアルペジオに乗せて,木管楽器群が,甘美な旋律を歌っていきます.木管楽器群がたいへんな名手揃いで,この部分は誠に見事でした.
第3楽章では,循環形式で,前2楽章の旋律が繰り返し現れます.副主題をもつ変奏曲、あるいは変則的なロンドの形式になっています.最後のピアノのカデンツァの後にハ長調の全合奏で2つの主題が融合されて盛り上がるシーンは圧巻で、その後の軍楽的な、大見得を切たような終結部はラフマニノフ作品の典型的手法で、「ラフマニノフ終止」とも呼ばれるものです.

この曲のアンコールとして,この3楽章の終結部が,指揮者を交えて再演され,さらに続いた拍手喝采に,ベレゾフスキーが,曲の最後のピアノの「ダダダン」という部分を弾いて,やっと休憩に入りました.

シェエラザード」というのは、極度の女性不信に陥っていた冷酷なシャリール王に、千一夜にわたって様々な物語を続けて、遂に王の心を開かせ、その妃になったという、周知の「アラビアン・ナイト(千一夜物語)」の女性名です.
この曲は,繋がりのない4つの物語を音楽化したモノですが,なんとなく甘美なメロディが淡淡と綴られています.メロディの美しさは抜群で,これも,1度聴くと忘れられない曲ですが,この多彩なオーケストラのchからを存分に発揮した名演奏でした.

イタリアのオーケストラの実力を大いに堪能した一夜でした.五弦も綺麗でしたが,金管,木管,そしてハープのそれぞれがたいへんな実力者揃いでした.


 


まだまだ危ないPhiladelphia 菅 [音楽時評]

Philadelphia Orchestra が第2次世界大戦後,中国を訪問した最初のOrchestra として,北京の芸術センターとの友好協定調印に成功し,Orchestra の財政難は若干は改善されたといくつか前のブログでご紹介しましたが,同Orchestra の抱える問題はそう生易しいモノではないようです.

ここに紹介する評論では,The Philadelphia Orchestra which filed for bankruptcy in April now says it has come up with $27.5 million in pledge money and donations. That's a good sign, although almost half of the funds are challenge grants which must be met by the end of the year.
とありますが, it has come up with $27.5 million in pledge money and donations. That's a good sign, although almost half of the funds are challenge grants which must be met by the end of the year.
よいうことで,その大半はOrchestra が同じ額を年内に集めた場合に限って,同額を寄付するという条件付きの寄付金なのです.つまり財政難の厳しさは相変わらずなのです.

その基本原因は,Some music aficionados say this is a signal of the decline of classical music in the United States. と指摘した上で,そもそもの基本的問題について,スエーデンの音楽家の指摘を引用しています.
There is certainly a good argument for maintaining huge symphony orchestras in every major city (and many minor ones) across the world. They have become symbols not only of Western civilization at its best, but of prosperity and the quality of life in the cities which they serve. But these huge institutional orchestras are like imperialist armies that have over-extended themselves."

すなわち,orchetra が帝国主義軍隊のように自らを巨大化してしまったからだと指摘しています.その1例として,Swensen points out that Orchestras are way too labor intensive and carry musicians that are not always needed on a daily basis. つまり,日常は必要としない演奏者まで,抱え込んでしまっていると指摘しています.

別の新聞の指摘として,Philadelphia Orchestra は,2001年にその所有する音楽学校のホールを出て,the Kimmel Center に賃貸形式で移転したのが,財政難の大きな要因になっていると指摘しています.

また,The Houston Chronicle reports that two days ago, a federal bankruptcy judge gave the green light to a dissolution of the six-year business agreement between the Philadelphia Orchestra and the Philly Pops. The two entities had merged operations in 2005 in an attempt to streamline operations, but the orchestra argued that the deal was hurting its finances.
と,2005年に締結したPops との一体化契約の破棄を裁判所判事が認めたと報じています.Orchestra はそれも経営難に貢献してきたと主張していたのです.

この裁判所の判断を green light と表現していますが,それが本当にPhiladelphia Orchestra の財政難打開へのgreen light  になることを期待したいモノです.

 

 

Oct 1, 2011 - 18 hours ago by Joan Firstenberg

Philadelphia orchestra struggles to keep the music going

By Joan Firstenberg.
Philadelphia - The Philadelphia Orchestra which filed for bankruptcy in April now says it has come up with $27.5 million in pledge money and donations. That's a good sign, although almost half of the funds are challenge grants which must be met by the end of the year.
The renowned 111-year old Philadelphia Orchestra made a stunning announcement in April when it filed for bankruptcy, the first big U.S. orchestra to ever do that. Some music aficionados say this is a signal of the decline of classical music in the United States. A New York Times reader of the events, Joseph Swensen, a violinist, and main conductor of the Maimo Opera in Sweden and the Scottish Chamber Orchestra views it this way.
"My sadness is visceral when I hear of a classical music institution like the Philadelphia Orchestra on the brink of collapse. We musicians tirelessly devote ourselves from the time we are small children to honing our skills and deepening our knowledge. All for the sake, so we are taught, of the composers we idolize. There is certainly a good argument for maintaining huge symphony orchestras in every major city (and many minor ones) across the world. They have become symbols not only of Western civilization at its best, but of prosperity and the quality of life in the cities which they serve. But these huge institutional orchestras are like imperialist armies that have over-extended themselves."
Swensen points out that Orchestras are way too labor intensive and carry musicians that are not always needed on a daily basis.
The Kansas City Star has its thoughts on why the orchestra is now in a failing financial situation.

The Philadelphia Orchestra’s 2001 move from the Academy of Music, which it owns, to the Kimmel Center, where it must pay rent, contributed to a structural deficit and, ultimately, a bankruptcy filing last spring.

The Houston Chronicle reports that two days ago, a federal bankruptcy judge gave the green light to a dissolution of the six-year business agreement between the Philadelphia Orchestra and the Philly Pops. The two entities had merged operations in 2005 in an attempt to streamline operations, but the orchestra argued that the deal was hurting its finances.

The Orchestra also has labor problems. The Association is involved in a contract dispute with its musicians and a mediation session is scheduled before a judge for Sunday and Monday.

Beethoven's Quartet op.18-2 のOriginal 版演奏会 [音楽時評]

先日の東京都交響楽団B定期で,上原彩子さんが,ソリストの意向を受け入れた幾度目かの改訂版ではなく,作曲当初の原典版に戻して演奏され,たいへん新鮮なモノを感じることが出来ましたが,イギリスで,この度,Beethoven の Quartet op.18-2 を,作曲者自身が後に書き直したモノではなく,最初に書き上げられ時点のオリジナルな第2楽章が復元されて,それに従った演奏会が開かれて話題になっています.

以下の記事は,アメリカCBCテレビの報道からの引用ですが,Manchester 大学教授の研究の成果として,200年前の原典版が復元され,たとえBeethoven は書き直したとしても,これほどの大作曲家のオリジナル版も名曲だとしてManchester で通して演奏され,それはそれで傑作だとして話題になっています. 

The team at the University of Manchester performed what called it a reconstructed version because they had to piece it together from musical notes left behind by the great composer.
Still, Ludwig von's trash is someone else's masterpiece! というのです.

It's not as if Beethoven's musical legacy needs enhancing. He's left a body of some of the world's most famous and powerful work, which may be why even the stuff he didn't like is still good enough for us now, and why a discarded bit of musical scribbling is now considered a major find.
として,アメリカにまで紹介されています.

  

Lost Beethoven sonata found after 200 years

By Mark Phillips
(CBS News)

The music world is buzzing over the performance of a Beethoven piece that had been lost for more than 200 years.

"Roll Over, Beethoven," it isn't, observers CBS News correspondent Mark Phillips, but the piece of music performed by a quartet in Manchester, England, has the classical music world all atwitter -- in the old way.

They're excited. The reason for the excitement is that the movement, part of Beethoven's String Quartet in G, Opus 18 number 2 -- its full name -- is billed as a lost sonata, now found - from 1800.

The team at the University of Manchester performed what called it a reconstructed version because they had to piece it together from musical notes left behind by the great composer.

The original work was never completed and published because Beethoven didn't like it enough to keep it. He threw it away and wrote another version, which everybody admits is better.

Still, Ludwig von's trash is someone else's masterpiece!

"I sense," says University of Manchester Professor of Music David Fanning, "people were listening very intently, and the reception for the first performance was extraordinary.

It's not as if Beethoven's musical legacy needs enhancing. He's left a body of some of the world's most famous and powerful work, which may be why even the stuff he didn't like is still good enough for us now, and why a discarded bit of musical scribbling is now considered a major find.


武蔵野文化小ホール:ドビュッシー弦楽四重奏団 [音楽時評]

9月30日,武蔵野文化会館小ホールにドビュッシー弦楽四重奏団を聴きに行ってきました.なかなかバランスの良い優れた弦楽四重奏団でしたが,プログラムには若干疑問を感じました.

メンバーは,
第1Violin: Christophe Collette
第2Violin: Dorian Lamotte
Viola:       Vincent Deprecq
Cello:       Fabrice Bihan
でした.リヨン国立高等音楽学校で学ぶ学生によって1990年に結成されたとあります.

プログラムは,
G. タイユフェール; 弦楽四重奏曲
ドビュッシー:     弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10
            ※※※※※※※
モーツアルトリヒテンタール編曲,ドビュッシー弦楽四重奏団補筆レクイエム ニ短調 k.626
でした.

タイユフェールは,1882年生まれの女流作曲家で,パリ音楽院で学んだ後,ラベルの教えを受けていますが,弦楽四重奏曲は1917-19の作品ですから,ラベルの知遇を得る前の作品です.しかし,簡潔な3楽章構成の曲ですが,新古典主義的な色合いが濃く,たいへん分かりやすい曲でした.
この第1曲目から,チェロの素晴らしさに感嘆しました.お陰で,日本の弦楽四重奏団では滅多に聴けない素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれました.この曲は,もっと取り上げられて良い素敵な曲だと思います.

ドビュッシーの弦楽四重奏曲は,有名曲ですから,無駄な付言はしませんが,この作曲家の名を冠した弦楽四重奏団に相応しい,これぞドビュッシーという名演を聴かせてくれました.

ここまでは素晴らしかったのですが,後半の編曲され,この四重奏団によって補筆されたモーツアルトの「レクイエム」は,何故,この四重奏団が,このモーツアルトで溢れた東京界隈でこの編曲を取り上げたのだろうという点に,およそ合点がいきませんでした.編曲がレクイエムの旋律をなぞっているのはよく聴き取れましたが,これだけ音楽媒体の豊かな時代,その豊かさを十二分に備えた東京界隈で,数世代前の時代にモーツアルトを普及させようとした編曲作品を,せっかくの優秀な弦楽四重奏団にわざわざ弾いて貰う謂われは,全くないと思うのです.

プログラムの裏面に海老沢敏氏の「レクイエム賛歌」のコメントが1頁あり,その下に,海老沢敏コレクション「モーツアルト・レクイエム展」の宣伝が掲載されていましたが,そんなことのお付き合いでこの楽団にレクイエムの編曲,補筆を弾いて聞かして貰ったとしたら,この楽団にとっても,今夜の聴衆にとっても,今のはやり言葉で言う「やらせ」の押しつけというべきだと考えます.


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